第14章 発達と環境:メディアの影響
14-1. 電子メディアの普及と利用状況
電子メディアの変化
大きな装置(固定型)から小さな装置(モバイル型)へ
集団での利用からパーソナルな利用へ
一方向的な情報提供から双方向的なやりとりへ
一つのメディア利用からマルチ・タスキング(複数メディアの同時利用)へ
機能の向上や複合化
子供たちの電子メディアの利用
テレビやゲーム、DVD(ベネッセ教育総合研究所, 2007, NHK放送文化研究所, 2010; 2015)
0~3歳児: 3~4時間/日
4~6歳児: 2.5~3.5時間/日
小学生: 2.5~3時間/日
乳幼児に関しては過去20年ほどあまり大きな変動はみられない
小学生に関しては2000年以降、テレビの視聴時間が減少傾向
中高生においてもテレビの視聴時間は減少し、1.5~2時間/日(ベネッセ総合研究所, 2006; 2014a)
増加しているのがインターネット
中高生の殆どが何らかの形でアクセス
平均して平日約2時間、休日約3時間
大半はメールやSNSなどのコミュニケーション目的
マルチタスキングも増えてくる
生まれたときからスマフォ、タブレット端末が身近にあることは、これまで以上に子どもの発達に影響を及ぼす可能性があると思われる(鈴木, 2014)
先行研究で繰り返し確認されているのは、子どものメディア利用は家庭の影響を受けるということ(向田, 2003)
親がテレビ好き→子どもの視聴時間も長い
テレビつけっぱや子供部屋にメディア機器→利用時間が伸びる
一方、親がメディア利用についてルールを決め、それを守るよう促していると、子どもの利用時間は短くなる(ベネッセ教育総合研究所, 2014b; NHK放送文化研究所, 2010; Rideout et al., 2006; 2010)
メディアの影響を議論する際には、メディアの種類、内容、利用者の特性を切り分けて考える事が重要(森, 2003)
14-2. 発達への影響
14-2-1. 攻撃性
最も多く研究されているのが暴力的な映像が子どもの攻撃性に及ぼす影響
バンデューラの実験(Bandura et al., 1963a) さらに、暴力映像の終わりに主人公がご褒美を得る報酬条件、罰を受ける罰条件、何の映像も見ない統制群を比較したところ、自由遊びでの攻撃行動は報酬条件で多く見られた。
攻撃行動の学習は、代理強化(自分以外の人に与えられる賞罰)を含め、モデルの行動を観察し、模倣することによって生じるという社会的学習理論を唱えた(Bandura, 1973) 長期的な影響の検討や比較文化的研究
縦断研究(Huesmann & Eron, 1986; Huesmann et al., 2003)や多くの研究を統合したメタ分析(Anderson et al., 2010; Christensen & Wood, 2007; Paik & Comstock, 1994)
テレビやゲームの暴力的な映像への接触は、男女ともに弱いながらも攻撃性を高めることが示されている
より年少の子供ほど、またメディアへの投入感や登場人物への同一視が強いほど影響が大きく、その効果が成人期にまで及ぶことも明らかにされている
このような結果から言えるのは、子供時代に暴力的なメディアに多く接することは、攻撃行動パターンの学習とともに、攻撃行動に関する特有の認知構造(スクリプトやスキーマなど)を発達させ、後々悪影響を及ぼす可能性があるということ 実際の攻撃行動の発現には個人のもともとの攻撃性、家庭環境、仲間関係、その時々の状況など、多様な要因が関わっていることも忘れてはならない
インターネットがいじめや攻撃行動のツールとして使われることも増えている
鈴木(2013)はネットを使用した仲間内攻撃行動の出現率が、ネットを使用しない攻撃行動ほど多くはないものの、小学生から高校生にかけて徐々に増加することを見出している
インターネットを使った攻撃行動は対面による攻撃行動と異なり、匿名性が高く、瞬時に広がるほか、被害者の苦しみが加害者に伝わらないなどの特徴があり、世界的にその悪影響が懸念されている(Barlett & Gentile, 2012; Patchin & Hinduja, 2006)
14-2-2. 社会性
社会的学習理論に従えば、向社会的な行動を学ぶ可能性もあることになる
向社会的な内容のメディアへの接触は短期的にも長期的にも向社会的行動を促す傾向があるという(Anderson et al., 2000; Gentile et al., 2009; Greitemeyer, 2011; Mares & Woodard, 2005)
一方で、暴力的なメディアへの接触は共感性や向社会的行動を抑制する方向に働くとされる(Anderson et al., 2010)
メディア利用の増加が他の活動時間を奪い、結果的に何らかの影響をもたらすという見方(Adnerson et al., 2001)
実際にゲームやインターネットに依存している青少年は先進国では1割弱いるという(Gentile, 2009; Gentile et al., 2011; 総務省, 2013)
こうした依存傾向はメディアそのものの特性による面もあるが、他の要因(いじめや疎外感など)が引き金となって、メディア利用が増加する面もあるようである(箕浦, 2014; 渋谷, 2011)
このように複合的要因によって悪影響がもたらされるケースもあるが、全般的に見ると、幼児や児童の社会性に及ぼすメディアの悪影響は確認されていない(菅原ら, 2008; 酒井ら, 2013)
ゲームの利用が中学生の対人不安を減少させる(井堀ら, 2002)
ゲームやインターネットが子供達の仲間関係を維持したり、広げたりするのに使われている(ベネッセ教育総合研究所, 2014a; NHK放送文化研究所, 2005)
14-2-3. 認知能力
メディアの総利用時間と学力との間にはしばしば負の関連が見られる(ベネッセ教育総合研究所, 2014a; Rideout et al., 2010; 坂元, 1992)
相関関係があるだけでは因果の方向性はわからない
アメリカの小学生を対象にした縦断研究によれば、適度なコンピュータの利用は子どもの学力にプラスに働く一方、長時間のゲーム利用は女児の学力にマイナスに働くことが示されている(Hofferth, 2010)
幼児期の終わりから4年間追跡調査を行ったドイツの研究によれば、テレビの長時間視聴者はそうでない視聴者に比べて、読解力の伸びが低かったという(Ennemoser & Schneider, 2007)
日本の縦断研究でも2歳以降のテレビ視聴時間の増加が、小学4~5年生の国語力に否定的な影響をもたらす一方、読書量の増加は国語力に肯定的な影響をもたらすことが示されている(工藤ら, 2014)
テレビを見ながら宿題をすることは注意の分散を招き、概して成果が低いことも示されている(Pool et al., 2000)
接触する内容によっても違いが見られる(Hastings et al., 2009)
暴力的な映像や大人向け番組の視聴は子どもの学力を下げる方向に働く(Huesmann & Eron, 1986)
子供向け教育番組の視聴は幼児(特に低所得層)の知的能力の向上に寄与することが示されている(Ennemoser & Schneider, 2007; Wright et al., 2001)
とりわけ、アメリカではセサミ・ストリートの効果研究が数多くなされている
幼児期の視聴が子どもの語彙や読み、計算能力などを高める(Fisch et al., 1999)
高校生になったときの学力や創造性にも総じて肯定的な効果をもつ(Anderson et al., 2001)
近縁は学習場面におけるコンピュータやインターネットの利用画像化しているほか、漢字や計算、外国語や歴史、環境問題など、教育を目的としたゲームソフトの開発も進んでいる(渋谷, 2011)
14-2-4. 健康
睡眠
メディアの利用の多さと子どもの睡眠の問題に関連があることが明らかにされている(Hofferth, 2010; 箕浦, 2014; Owens et al., 1999; Paavonen et al., 2006)
幼児の場合は、夜のメディア利用や日中の暴力的な映像の視聴が睡眠の問題を引き起こしやすいという(Garrison et al., 2011)
睡眠にまつわる問題は結果として子どもの日中のQOLを低下させ、行動や健康、学習面に問題を引き起こす恐れがある(神川, 2008)
縦断研究により、中学・高校時代のメディア利用の多さが20代の睡眠の問題につながっていることも示されている(Johnson et al., 2004)
肥満
メディア利用時間の長さは子どもの肥満のリスクを高める(Casiano et al., 2012; Danner, 2008)
メカニズムとしてはメディア利用による身体活動の不活発、利用時のカロリー消費、食品広告の影響などが指摘されている(Robinson, 2001)
身体活動を促すゲーム(エクサゲーム)も開発され、運動不足や肥満の解消に貢献しているという報告もある(Chamberlin & Maloeny, 2012)
ボディイメージ
痩身と減量が大切であるというメッセージも流される(Hogan, 2012)
テレビ、ゲーム、雑誌、広告などの内容分析によれば、メディアには容姿のよい痩せた人が多く登場し、男性の場合は筋肉質が、女性の場合は若さや性的魅力が強調される傾向にあるという(相良, 2003; Scharrer, 2012)
こうしたメディアへの接触は理想的なボディイメージの内面化につながり、若い男女の身体不満を高める(Barlett et al., 2008; Groesz et al., 2002)
摂食行動(ダイエット)にも影響を及ぼしている(Grabe et al., 2008)
近年はその影響が低年齢(5~8歳)児にも見られる(Dohnt & Tiggemann, 2006)
ボディイメージに関してはメディア接触のみならず、仲間の影響もあることが示されている
14-3. メディアとのつきあい方
環境設定と習慣形成
親による配慮は子どもの健全なメディア習慣の形成につながる
乳幼児期に身につけたメディア利用の習慣はその後も持続しやすい(Christakis & Zimmerman, 2006)
思春期以降の厳しいメディア制限は逆効果につながることが示されている(Nathanson, 2002)
メディア・リテラシー: 子ども自身がさまざまなやり方でメディアにアクセスし、内容を分析し、評価し、自らも創り出す力のことを指す(Arke, 2012) メディア・リテラシーの育成は学校教育や社会教育を中心に議論されることが多いが、親による媒介の効果も認められている(Chakroff & Nathanson, 2008)
媒介とは、子供と一緒にメディアの内容について話し合ったり、子どもの質問に答えたり、解説したりすることをさす
メディアをめぐる親子間のコミュニケーションは、メディア・リテラシーのみならず、幼児期の社会性や児童期のQOLの向上にもつながることが示唆されている(長谷川・坂元, 2012)
親や教師を支援する方策の充実
メディアの変化は著しく、かつ若い世代ほど吸収が早い
実際、児童期の終わり頃から、インターネット上のトラブルの経験が増えてくるが、その認識には親子でギャップがあるという
高校生では保護者の認識では5割だが、本人の回答では6割近くがトラブルを経験していると答えている(内閣府, 2014)
個人情報の流出、誹謗中傷やいじめ、浪費、不当な代金請求、性的被害など(総務省, 2016)